本書籍では、データについて「信頼性を精査しよう」と書きました。

補講として
「具体的にどのようにデータに向き合えばいいのか?」
実例を交えて解説します。

2017年のきさらぎ賞の予想記事で
「サトノアーサーはこのメンバーの中だと確かに強いけど、騎手が川田やぞ、ルメールじゃないのによくここまで人気になるなあ」
みたいな事を書いていたのですが、ツイッターでこのような質問を頂きました。

メタボ教授の回答は

本当に川田騎手が京都1800Mの競馬が上手いのかデータ的に検証してみましょう。

まずやる事は、このデータが過去5年という条件なので

・過去10年や過去3年といった別の年数でも見る

必要があるでしょう。

データの期間を長くすると「サンプル数が多くなる」、データの期間を短くすると「より直近の内容を反映している」というメリットがあるわけです。

これらを見る限り、正直どっちでも取れる数字でした。

別のアプローチとして、「川田騎手が京都1800Mが得意なら、それは何故なのか?」を考えることです。

京都外回りコースは特殊なコースなので、「京都外回り全体のデータ」に範囲を広げてみました。

騎手 着別度数 単回値 複回値
武豊  51- 33- 33-162/279 89 87
川田将雅  50- 32- 33-212/327 75 72
浜中俊  47- 40- 28-215/330 99 84
岩田康誠  38- 39- 40-206/323 59 71
福永祐一  35- 47- 33-173/288 54 79
和田竜二  31- 38- 42-282/393 100 92
ルメール  31- 25- 18- 85/159 105 100
池添謙一  24- 21- 21-202/268 70 91
松山弘平  21- 16- 12-198/247 79 54
四位洋文  20- 21- 14-152/207 45 92
デムーロ  18- 22-  9- 68/117 55 72

(この記事のデータは以降のデータを含めて全て過去5年で取っています)

一気に成績が悪くなりました。

やはり、京都1800が得意なのは偶然の偏りなのでしょうか。

 

他にも関連しそうなデータをアレコレ調べると川田騎手が京都外回りにおいて差が大きいのが『クラス別成績』という事実に気が付きます。

騎手 着別度数 単回値 複回値
  新馬   4-  5-  0-  9/ 18 101 81
 未勝利  14-  8-  7- 26/ 55 94 116
 500万下  11-  3-  8- 32/ 54 174 83
1000万下   6-  8-  7- 53/ 74 22 61
1600万下   4-  5-  7- 21/ 37 35 84
OPEN特別   3-  1-  1- 25/ 30 49 24
  重賞   8-  2-  3- 46/ 59 60 46
  平場  28- 17- 15- 71/131 122 97
  特別  22- 15- 18-141/196 43 55

新馬や未勝利など平場では成績・回収率共に超一流の騎手でした。

この時に気をつける点は「川田騎手は全体的に若駒や平場のレースが上手い」という可能性です。

そこで京都外回りだけではなく、川田騎手の若駒レース全体のデータを見る必要があります。

調べた結果、京都外回り特有の現象でした。

 

という事は川田騎手の騎乗スタイルは下級条件の流れならピッタリと考えられます。

特に1800Mはコーナーまでの距離が長く、緩い流れになりやすいので、そういった部分で川田騎手の騎乗スタイルに合っているのかもしれません。

となると、きさらぎ賞は重賞であるものの、毎年少頭数でユルユルのレースですから実質平場みたいなものです。

川田騎手でも大丈夫なのでは?

と感じました。

結果的には雨が大きく影響します。

「差しが届かない馬場なのに、後ろで脚を溜めて届かない」騎乗で2着に負けますが、あれが良馬場だったら勝っていたはずです。

何でもかんでも川田騎手という名前を見て軽視するのは良くないと反省しました。

 

また上記のツイッターのやりとりがあった数時間後に放送された競馬予想TVで「池江泰寿調教師は京都1800Mで圧倒的な成績を残している」という話が出ています。

ひょっとしたら「川田騎手に依頼する調教師の偏りに原因があるのかな?」と思って、池江調教師が川田騎手にどれだけ乗せているか調べてみました。

池江泰寿厩舎の京都1800M騎手別成績

騎手 着別度数 単回値 複回値
川田将雅  4- 0- 1- 2/ 7 102 88
武豊  3- 1- 0- 2/ 6 123 78
ルメール  2- 1- 0- 0/ 3 100 110
岩田康誠  2- 0- 0- 1/ 3 93 73
池添謙一  1- 0- 1- 2/ 4 102 75
浜中俊  1- 0- 0- 5/ 6 78 28
福永祐一  1- 0- 0- 2/ 3 50 36
松山弘平  1- 0- 0- 1/ 2 85 55

池江調教師は川田騎手に沢山頼んではいますが、川田騎手が独占しているわけでもありません。

 

念のため今度は川田騎手の京都1800Mにおける厩舎別の成績を見てみましょう。

調教師 着別度数 単回値 複回値
池江泰寿  4- 0- 1- 2/ 7 102 88
松田博資  3- 3- 1-20/27 51 49
友道康夫  2- 1- 1- 3/ 7 92 72
高野友和  2- 1- 0- 1/ 4 502 177
橋口弘次  1- 1- 1- 4/ 7 91 260
矢作芳人  1- 1- 0- 0/ 2 75 120
角居勝彦  1- 1- 0- 0/ 2 150 135
西園正都  1- 1- 0- 0/ 2 215 160

これは解りやすいデータだと思います。

数字的に松田博資厩舎が大きく足を引っ張っているわけです。

川田騎手はフリーですが、実質はこの厩舎の専属みたいなものでした。

京都外回り全体にデータ幅を広げても
確かに松田博資厩舎が大きく足を引っ張っています。

一方で全体の成績を見ると、川田騎手×松田博資厩舎の組み合わせは悪くありません。

つまり、川田騎手の京都外回りの成績を押し下げたのは松田博資厩舎との関係によるものが大きい事と考えられます。

松田博資元調教師の調教パターンはウッドで長い距離をゆっくり走らせて最後だけ追うようなスタイルです。

このような調教をする事により、追い込み一辺倒の馬ばかりでした。

川田騎手に対して「自分の所の馬が一番強いから小細工せずに最後尾から大外ぶん回して来いや」と指示していたそうです。

でも京都外回りはそんな騎乗をすると、ほぼ届きません。

これが川田騎手の京都外回りの数字が悪い最大の原因だと思います。

騎手データは依頼される調教師が偏ると、データも偏る事があるわけです。

福永騎手は京都外回りが得意

みたいな事を書籍に書いていますが、上のデータを見ると平凡です。

これについても解説しておきます。

福永騎手は下り坂のポイントは理解していますし、最後の直線はバラけやすい事も理解していますが、それに固執するあまり、脚を溜めすぎて届かない事が多いです。

そのため一瞬の加速力やトップスピードが劣る馬に乗るとよく差し損ねます。

福永騎手における京都外回りの種牡馬別成績

種牡馬 着別度数 単回値 複回値
ディープインパクト 10-19- 9-40/78 51 84
キングカメハメハ  3- 1- 3-10/17 47 96
シンボリクリスエス  3- 1- 0- 8/12 61 50
ダイワメジャー  2- 2- 2- 6/12 53 94
マンハッタンカフェ  2- 2- 1- 9/14 34 65
アドマイヤムーン  2- 0- 1- 3/ 6 325 155
ハーツクライ  1- 3- 4-11/19 8 61
ネオユニヴァース  1- 2- 3- 8/14 9 64
ステイゴールド  1- 2- 2- 8/13 51 96
アグネスタキオン  1- 2- 0- 4/ 7 101 152
フジキセキ  1- 1- 0- 3/ 5 126 142
ジャングルポケット  1- 0- 2- 3/ 6 93 73
アルカセット  1- 0- 0- 1/ 2 605 195
ファルブラヴ  1- 0- 0- 2/ 3 233 63
クロフネ  1- 0- 0- 1/ 2 180 80

1着が少ないので単勝回収率は低いですが、人気過剰のディープやキンカメでの複勝回収率は優秀です。

一方で京都外回りの血統傾向を出すとマンハッタンカフェ産駒がいいのですが、福永騎手は苦手としています。

マンハッタンカフェ産駒はロングスパートタイプです。

京都外回りで4コーナーの立ち上がりまで仕掛けない福永騎手のスタイルには全く合わない種牡馬だと言えます。

多少のリスクは覚悟で下り坂で加速をした方がいい種牡馬です。

ディープ産駒やキンカメ産駒といったトップスピードも加速力も優れた血統は福永騎手の乗り方で正解なのですが、そうじゃない馬も沢山居ます。

そのため、何でもかんでも京都外回りで福永騎手を買うわけではありません。

まとめ

競馬のデータというのは
「サンプル数を多く集めようとすると、関連が薄い昔のデータが絡んで来る」
「直近のフレッシュなデータを集めるとサンプル数が集まらない」
という2つのジレンマがあります。

ただ単に成績や回収率データを見て「数字の高い・低い」を追うのではなく、「何故そうなのか?」を関連するデータなどを見つつ確認する作業が重要です。

「何故そうなのか?」を説明出来ないデータは「偶然の偏り」と割り切って、参考にしない方がいいと思います。